2005年

ーーー6/7ーーー 薪作り

 来シーズン以降の薪ストーブの燃料として、丸太を購入した。最近は無料で手に入る不要木の話が来なくなったので、四賀村の林業者に頼んで丸太を運んでもらっている。長さ1メートル、直径が平均で15センチの丸太を今回は185本。体積としては約3.3立方メートル。材種はほとんどがナラやクヌギの割りやすい木で、中に少しアカシヤやサクラが混じっている。

 これで値段は35000円であった。これが安いか高いか、ちょっと考えた。

 計算してみると、この丸太は燃やしたときに発生する熱量1000kCal当たり4.4円の値段となった。灯油だと6.3円くらいであるから、丸太の方が3割ほど安いことになる。薪ストーブと石油ストーブの燃焼効率の違いもあるだろうから、簡単に比較はできないが、これまで両者を使い比べた実感からしても、丸太の方がかなり経済的には有利だと思われる。

 ただし、この丸太の状態で燃やせるわけではない。チェーンソーで玉切りをしてストーブに入る長さにし、さらに斧で割って小さくしなければならない。そしてそれを乾燥させるために、雨のかからない場所に積み上げなければならない。これらは膨大な作業である。その作業をお金に換算したら、たちまち灯油との立場は逆転するだろう。ちなみに、すぐに使える状態に加工してある薪は、良心的な価格であっても、1000kCal当たり20円くらいになる。

 しかし、労働をお金に換算することを止めてしまえば、木を燃やす生活も悪くない。定年退職したけれどまだ元気な人、体力を持て余している若者たち、あるいは休日のサラリーマンなどにとっては、薪作りは好ましい運動となる。青空の下での作業は、気分も爽快にしてくれる。そして何よりも、自宅で使う燃料を自分で用意しているという感覚が良い。冬へ向けての準備を夏の前から始めるという、スケールの大きい季節感も楽しい。大自然の中で自給自足をしていた原始社会に対する憧憬が、ほんの少し満たされたような気持ちになるのである。




ーーー6/14ーーー 高校の音楽会

 娘が通っている松本深志高校の吹奏楽部の定期演奏会を聞きに行った。会場は松本音楽文化ホール。客席数は756と特別大きくはないが、パイプオルガンまで装備した、鄙には希なる素敵なコンサートホールである。

 7〜8年前になるが、長女が同じ高校のジャズバンドでドラムを叩いていた頃、吹奏楽部の定期演奏会に助っ人として出演したことがある。その当時は部員が少なく、打楽器の奏者が不足していたのだった。そのときの演奏会を思い出し、今回も行ってみる気になったのである。

 現在は部員が69名もいるとのこと。この春の新入生だけでも33人を数えるそうである。長女の頃とくらべると、ずいぶん大所帯になったものだ。それのためか、観客も多かった。たかをくくって開演時刻直前に入ると、満席であった。

 管弦楽や吹奏楽のコンサートは、始まる前からわくわくさせるものがある。舞台が薄暗いうちに楽団員が席に着く。そして照明が徐々に明るくなっていく。必要と思われる限度を越えて、これでもかというくらい明るくなる。正装の楽団員が浮かび上がる。楽器が輝く。この演出だけでもう、客席の私は胸が高鳴っていくのだ。

 青少年の音楽イベントを聞きに行くと、このところ常に感じるのだが、とてもレベルが高い。今回の演奏についても、私が同年代だった頃の大学生の演奏よりも質が高いと言っても、言い過ぎではないだろう。楽器が良くなっているせいもあるだろうが、やはり子供たちをはじめ、関係者の研鑽と精進の賜だと思われる。

 ことに近年、松本周辺はサイトウ・キネン・フェスティバルの影響で音楽文化が向上しているとの評判である。フェスティバルの名のとおり、このイベントには様々なプログラムが盛り込まれている。一流演奏家による公開レッスンも行なわれる。小澤征爾氏みずから指揮棒を振る、子供たちのためのコンサートも行なわれる。フェスティバルが開催されるようになってから、松本の小中学校のブラスバンドの質が大いに向上してきたとの話も聞く。

 私自身は、サイトウ・キネン・オーケストラの演奏の感銘度にはいささかの疑問を持っている。しかし、偉大な芸術家小澤征爾氏が牽引してきたサイトウ・キネン・フェスティバルが、松本の地に着実に根付いて、素晴らしい音楽文化を育んでいることは、疑いようのない事実だろう。



ーーー6/21ーーー ミニチュア・ダイニング・セット

 
4月のこのコーナーでミニチュア椅子のことを書いた。今回はさらに発展して、ダイニングセットのミニチュアを作った。これもスケール1/5である。

 ある工務店の社長が、建物と家具をセットにして顧客に提案するという企画を進めていることは、以前述べた。それが具体的な案件として実現することになった。

 お客様はダイニング・テーブルを伸縮型にしたいと申された。甲板の一部がヒンジで折れ曲がるようになっている、いわゆるドロップリーフ・テーブルである。その仕組みを説明するのに、ミニチュアを作るのが良いということになった。

 お見積りをする際に、家具の形を図面に描いてお客様に提出することは、私にとって通常の方法である。図面に表さないとお客様は不安だろうし、私としてもイメージが確定しない。どうせ製作に入る時には図面が必要なのだから、始めからある程度のものを描いてしまう方が、私にとってやり易い。同業者の中には、一切図面を描かずに仕事をしている人もいるようだが、大学の工学部からエンジニア業に進んだ過去の経歴が、私にこのようなプロセス以外を認めさせない。

 図面は普通だが、お見積りの際にミニチュアを添えるということは、今までほとんど例が無かった。面倒だと感じたのは否めないが、その反面ちょっとした好奇心もあって、結構楽しく作り上げた。

 このミニチュアセットを建築現場に持ち込んで、お客様と打ち合わせをした。とても好評であった。部屋の中での置く方向や、甲板を一部丸くするなど、今まで知らなかったことも出て来て、ミニチュアをいじりながら話が盛り上がった。図面とはまた違って、立体的なイメージはたいへん話を分りやすくする。作った甲斐があったというものだ。

 前回の椅子と今回のテーブル。数年ぶりにミニチュアを作ったのだが、その過程でいろいろな新しいアイデアが頭に浮かんだ。今後新製品を開発するに当って、役に立つだろう。やはり図面とは違って、立体模型は造型感覚を刺激するのである。



ーーー6/28ーーー 白い椅子

 この春の新製品SSチェアは編み座バージョンでスタートした。それの発展型として、クッション座バージョンを作ってみた。写真のものが、試作品第一号である。

 SSチェアに使う材は、クルミと決めている。軽いからである。軽い材は強度的に弱いが、SSチェアは構造的に頑丈な形なので、問題は無いと判断している。しかし、この試作品はカバ材で作った。クルミはすぐに使える在庫が少なくなっているので、試作品は在庫に余裕のあるカバ材で作ったのである。

 カバ材は心材(樹心寄りの赤みがかった部分)と辺材(樹皮寄りの白みがかった部分)の比率にあまり偏りが無い。また、辺材でも強度的に問題なく使える。というわけで、カバ材で家具を作る場合は、心材と辺材を共に使うのが普通である。ところが心材と辺材では色や質感が大いに違う。伝統的な木工の分野では、赤い心材と白い辺材が入り混じって使われている品物を、「アカシロ」とか「源平」とか呼んで低く見たそうである。

 どちらかに統一するとなると、色がある心材を優先することになるだろう。しかし、心材だけを使い、辺材は捨てる、あるいは裏の用途に回すとなると、それは大変である。心材が丸太の直径の60パーセントを占めても、体積は36パーセントしかない。心材だけを選択して使うのは、経済的に大きなデメリットとなる。

 心材も辺材もお構いなく使うには、着色するという手がある。民芸家具がそうであるように、黒っぽい塗料で仕上げてしまえば、材の色の差は分からなくなる。さらに、管理が悪くて菌類に侵され、変色しているような材でも、お構い無しに使うことができる。製品の外見的な個体差を嫌う量産家具の世界では、このような工夫が行なわれている。

 私は木の肌の色や表情をそのまま生かしたいと考えているので、特別に顧客からリクエストが無い限り、着色はしない。これは私に限らず、現代の手作り木工家具製作における主流だと思われる。当然のことながら、材の選び方や管理の方法には注意が必要となる。

 さて、話を元に戻そう。この試作品は、ほとんどの部材をカバ材の辺材で作ってある。別に意図したわけではなく、たまたま手近な材を使ったらこうなったのである。結果として真っ白い椅子になった。そこに赤いレザーである。なんとも可愛らしい雰囲気となった。

 これをソープ・フィニッシュで仕上げたら、私の好みからすれば愛すべき一品となるだろう。商品という枠から離れれば、木地そのままの無塗装に近いソープ・フィニッシュという仕上げ方法が、私の個人的好みに占める割合は大きい。

 ちなみにソープ・フィニッシュというのは、ナチュラル・ソープの溶液を木肌に塗布する仕上げ方法で、北欧の家具職人の中にはこれが一番だと言う人もいる。私が普段行なっているオイル仕上げは、着色ではないが、材が濡れたような風合いになる。それと比べてソープ・フィニッシュは、材が乾いたままの感じになる。艶も無く、見映えはしないが、手触りはサラッとしていて、自然な雰囲気が魅力の仕上げ方法である。



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